シンジにとってレイの対応は、理解不能でしかない

 

エヴァンゲリヲン新劇場版:序より

 

綾波のセキュリティカードを頼まれたシンジは、レイの写真を見ながら
「父さんは何で笑ってるんだ? なんでボクには笑わないんだ・・・」
独り言をつぶやく。シンジにとっては理解不能だ。

 

そしてシンジは綾波の部屋ににカードを届けに行く。ゲンドウのメガネだとは知らずに、メガネを手に取りかけたとき、綾波がシャワーから出てくる。

 

14歳の男子としては、そりゃあ焦りまくるのが当たり前だけど、同じ14歳女子の綾波は、自分が裸だということなんかお構いなし。ゲンドウのメガネの方が気になる。


レイがシンジからメガネを取ろうとして、ふたりは折る重なるように倒れるけど、焦っているのはシンジだけでレイは動じることがない。

 

メガネを取り返したレイは淡々と着替え始める。「なに?」と冷静に問いかけて、シンジの言葉なんか聞いてない。ゲンドウのメガネの方が大事なんだ。


ネルフに入るとき古いカードじゃ入れないんだけど、シンジに新しいカードを差し出されても、ありがとうも言わずに受け取り、何も言わずにさっさと行ってしまう。シンジは綾波を理解できないだろうし唖然とする。

 

 

エヴァに乗る怖さを、レイに共感してもらいたかったシンジは、ただ面食らうしかない

 

エレベーターでの会話も面白い。
シンジ 
「さっきはごめん」

レイ  
「何が」

シンジ 
「ねぇ 綾波は怖くないの? またあのエヴァンゲリヲンに乗るのが」

レイ  
「どうして?」

シンジ 
「前の実験で大ケガしたって聞いたから・・それでも平気なのかなって・・」

レイ  
「そう、平気」

シンジ 
「でも・・またいつ暴走して危ない目にあうか・・使途に負けて殺されるかもしれないんだよ・・ボクらは」

レイ  
「あなた 碇指令の子どもでしょ」

シンジ 
「うん」

レイ  
「信じられないの? お父さんの仕事が」

シンジ
「当たり前だよ! あんな父親なんて」
このときレイが振り向いて シンジに平手打ちする。そして何も言わずに立ち去る。

 

シンジにとっては、レイとゲンドウが笑いながら話してるのがナゼなのか、さっぱり理解出来ないだろうし不思議でしかない。

 

だってゲンドウがシンジに対して笑いながら話すなんてことは今までにないんだから。

 

レイにカードを届けに行くとき、シンジにしてみれば、ゲンドウのことを何か聞けると思っていたかも知れない。

 

レイの部屋でシンジがメガネを手にしたとき,このメガネがゲンドウの物だとは知らない。レイがシャワーから出てきてシンジは焦るけど,レイはそんなことお構いなしだ。

 

自分が裸だろうが関係ない、レイにとってはゲンドウのメガネの方が大切なんだ。まあレイの生育環境を考えたら、レイは感情というものはほとんど理解できないだろう。

 

レイがゲンドウの元で育ったことを考えれば、感じたことをどう表現するかなんて分からないのは容易に想像できる。

 

ゲンドウ自身が感情をほとんど外に出さないし、自分から積極的に他人に関わることもない。ゲンドウが他人と関わるのは、必要最低限だ。エレベーターでシンジに会っても声をかけることはない。

 

生まれてすぐからゲンドウの元にいるレイは、生きていく上でお手本にするのはゲンドウしかいなかっただろうし、赤木博士はいただろうけど、関わりは少なかったろう。

 

他の人と必要以上のコミニュケーションをとることもなければ、自分から他人に近づくなんてことはないだろう。


そんなレイは、恥ずかしいという感情さえもわからない。経験したことがなければわからないのは当然といえる。

 

だからエスカレーターで、シンジに「さっきはごめん」と言われてもなんのことかわからず「何が」と答えている。 

 

レイにとっては、メガネが大事ってことだ。レイは他人と関わること自体、どうすればいいのかよく分かっていないし、自分から関わろうという気持ちもない。

 

他人と関わる経験がなければ、関わり方もわからない。

 

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子どものころに体験できなかったことは、大人になってもわからないままだ

 

シンジ 
「ねぇ 綾波は怖くないの? またあのエヴァンゲリヲンに乗るのが」

レイ  
「どうして?」

シンジ 
「前の実験で大ケガしたって聞いたから・・それでも平気なのかなって・・」

レイ  
「そう、平気」

 

シンジはエヴァに乗るのが怖いから、レイにも聞いてみたくなる。でもレイの返事ときたらまるで平気な感じだ。レイにとって死は怖いものではないんだろう。

 

レイがゲンドウのメガネにこだわっているのは、そこに唯一繋がっている感じがするからで、それ以外にな何もない。


レイ自身は意識でそんなこと認識していないけど、メガネをもっていることでゲンドウと繋がっていられると、心のどこかで感じているんだろう。

 

人はひとりでは生きて行けない。レイはエヴァに乗って死ぬ恐怖よりも、ゲンドウと繋がっていられなくなる恐怖の方が強いんだろう。

 

子どもは生まれてすぐから、誰かに面倒見てもらわなければ生きて行けない。

 

レイも生まれてからしばらくは、普通の子どものように泣いたり駄々をこねたりしていたかもしれない。

 

いくら泣こうが、いくら駄々をこねようが、自分の一番身近にいて世話をしてくれる大人がどうしたの?とか、お腹だすいたの?とか、一緒に遊びたいの?とかetc自分に向き合って対応してもらえなかったら、何も学べないまま育つことになる。

 

子どもは、心で感じたことを表現しても意味がない、ということを学んでしまう。

 

子どもは頭で考えるより先に、心で感じたことを表現するから。心で感じたことを表現しても意味がない、と学んでしまえば、心で感じないようにした方が良いと学習してしまう。

 

心で感じたことを表現しても、受け入れられることがなければ、自分は必要ないんだって思ってしまうし、苦しいだけだから。

 

でも子どもが生きていくためには、お世話をしてくれる誰かが必要だ。その関係の中で受け入れられないものは、生存本能が辞めさせてしまう。

 

そうしなければ心が壊れるし、生きていくこと自体難しくなるから。だから身近にいる大人を見て、それにあわせて生きていくようになる。

 

子どもは大人が思っている以上に敏感だし、大人の心を敏感に読み取れる。

 

レイがもしこんな風に育ったとしたら、恥ずかしいなんてこと思わないだろうし、生まれたときから一緒にいるのはゲンドウだけだからね。ゲンドウと繋がることが出来なくなってしまったら、レイの拠り所はどこにもなくなってしまう。

 

拠り所がどこにもないというのは、レイにとっては死よりも潜在的恐怖があるんだろう。


だから死ぬかもしれなくてもエヴァに乗るのが平気なんだ。

 

レイにとって欠かせないものはメガネで、エヴァに乗るときはいつも持っている。メガネを持ってエヴァに乗ることで、死んでもゲンドウと繋がっていられると感じるんだろう。

 

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レイにとっては、承認欲求さえ必要ない

 

シンジ 
「でも・・またいつ暴走して危ない目にあうか・・使途に負けて殺されるかもしれないんだよ・・ボクらは」

レイ  
「あなた 碇指令の子どもでしょ」

シンジ 
「うん」

レイ  
「信じられないの? お父さんの仕事が」

シンジ 
「当たり前だよ! あんな父親なんて」

 

ここでシンジは 平手打ちをくらう。レイにとってはとても大切な人なのに、シンジは父親なのに信じられないと言う。

 

レイは我慢できなかったんだろう。だってレイにとってはゲンドウは父親じゃないけど、シンジにとっては父親なんだから。

 

このとき、レイの心が動く。心が動いたからシンジをぶったんだ。感情が分からないように見えるレイだけど、ちゃ~んと心が動くときがあるんだ。

 

このときレイは頭で考えてない。シンジは子どものくせに父親を信じていないとか、そんなこと考えてない。思わず手が出ちゃったんだろう。

 

承認欲求さえないレイでも、無意識はやはりどこかで誰かと繋がっていたいと切望している。

 

ここでひとつ勘違いしないでほしいのは、心で感情を感じることと、その感情を相手にぶつけることは別だ。ここでは、シンジやレイの考察をしているのであって、それが全てではない。

 

心はとても複雑だ。心が複雑というよりは、そこに思考が入ってくるから複雑になるんだけど、もし心が誰かに怒りを感じたとしても、その怒りを相手にぶつけることと、その怒りを自分ひとりでただ感じるのは、別だってことが言いたいんだ。

 

怒りが収まらなければ、お茶碗を割るなり、新聞を破きまくるなり、ひとりで発散する方法はいくらでもあるから。

 

「無意識」はすべてを知っている